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渋いおじさんたちの饗宴
男性のボーカリストと言うものは年々減少傾向にある。
ジャズなどは最早壊滅状態に近い。
ポップス系でも実力派女性ボーカルは次々とデビューするのに、男性ボーカルはトンと聞くことがない。
昔はそうでもなかった。ポップスの世界でもナット・キング・コール、ポール・アンカ、パット・ブーンなど歴史に名を残す男性シンガーがたくさんいた。
ただし今挙げた人たちは全て50年代から活躍し、60年代に全盛期を迎えた人たちである。
もう少し時代は下って、フォークソング、ロック世代になると、バンド上がりの男性シンガーが活躍するようになる。ポール・サイモン、JDサウザー、ボズ・スキャッグス、ビリー・ジョエルなど70年代に活動のピークを迎えた人たちがいる。
それが80年代になると、男性ボーカリストのデビューがめっきり減少する。ジャズではほとんどいなくなるしポップス界ではロッド・スチュワートに代表されるロック的要素の強いポップスに少々存在するだけ。もっともロッド・スチュワートも70年代から活躍している人である。
ただしロックの世界は違う。
ロック、特にハード・ロック、ヘヴィ・メタルの世界では男性ボーカルが大半を占める。
またロックだけではなく、レゲェやR&B、ヒップホップの世界でも同様に男性主流の状況が続いているようだ。
私はなにも男性優位論を唱えているわけではない。男性ボーカルと女性ボーカルの間に、どのような音楽性の違いがあるのかを探っているのである。
その観点から考えるに、女性の声に癒しを求める人が多いのではないだろうか。その事は以前にも書いた。
現代はストレス社会といわれて久しい。
60年代の公民権運動も、それに続くヒッピーカルチャーも、政治性を除けば、一種のストレス開放の形であったと何かの本で読んだ事がある。
現代では社会構造が固定化し、新たなる価値観で革命を起こそうなどといった行動は出来にくい。
また、急激な変化に追従するスピードはより求められる。ストレスは溜まる一方である。
こういった現状の中、女性の声に癒しを求める人々が増えるのも無理からぬ事で、癒しを主眼においた音楽性を持つジャンルにおいては、女性ボーカルが主流を占めるようになったと考える事ができる。
では、ロックやR&B、或はヒップホップ、レゲェなどにおいては、未だ男性ボーカル主流が続く現状をどう説明するか。そこに一つの答えがあるように思う。
男性ボーカルが未だ主流を占める音楽ジャンルには、以下の共通点が挙げられる。
A、メッセージ性
B、パッション(熱い思い)
C、さわやかさ(クール感)
D、かっこよさ
E、繊細さ
無論、このような要素を多く持った女性ボーカルがいないわけではない。しかしこういった感覚は、メッセンジャーとして男性が伝えてこそ、心に深く刺さる傾向が強いのである。
60年代〜70年代に、男性ポップスシンガーが多くデビューしたのも、強いメッセージ性が求められる時代であったからなのだろう。先出のヒッピーカルチャーの時代は正しくそれで、ベトナム戦争を引きずった70年代は、新たな価値観が模索された時代でもあり、多くのメッセージソングを歌う男性ボーカリストがいた。
またラブソングでも、その昔は恋人への熱い思いや、思いの届かぬ苦しい胸のうちを、パッションを込めて歌う男性シンガーが多くいた。しかしそれは現在ではあまり受け入れられることのない恋愛感なのかも知れないが。
またさわやかさや大自然の美しさを朗々と歌う男性ボーカルには、女性のそれにはない力強さや安心感がある。さわやかでクールである事は、相手に安心感を与える行為だとも言えるのではないだろうか。
かっこよさとは男性性そのものでもあり、かっこよさの定義に様々な価値観はあろうとも、それを追求する男性を好ましいと思う女性も多いはずである。
更に男性の繊細さは男性特有のものだと思う。精神面においては女性の方が遥かに強く、男性が悩むような事では女性は悩まない。繊細な感覚を歌う男性ボーカルは人生の悲喜交々を見事に表現する。
という訳で今回は、今や絶滅危惧種となりつつある、男性ポップスシンガーのアルバムを、新旧織り交ぜてご紹介する。音質が良く、聴いて楽しい音楽を主軸におき、解説はくどくならないよう、さらっと済ませるが、今回は特別企画として、先出のAメッセージ性、Bパッション(熱い思い)、Cさわやかさ(クール感)、Dかっこよさ、E繊細さのそれぞれの項目に、5点満点評価を追加する。多分に独断と偏見が混じるのは言うまでもない。

Timothy B Schmit "Playn' It Cool"
音質 9.3
音楽としての楽しさ 9.7
録音の趣 9.6
A、メッセージ性 2
B、パッション(熱い思い) 3
C、さわやかさ(クール感) 5
D、かっこよさ 4
E、繊細さ 3
Amazonjp
84年の作品。
ティモシー・B・シュミットは元来ベーシストとしてポコ、イーグルスを経てソロとなる。
ソロとなってからは、ボーカルやソングライティングにも絶大な才能を見せ、名曲も多い。
3曲目のアカペラコーラスナンバー、So Much In Loveを聴けば「あ〜あれ!」と言う人も少なくないだろう。オリジナルは黒人ドゥーワップグループの「タイムズ」が63年に発表して全米1位となった曲。ティモシーがカバーして、もう随分前にパイオニアのステレオのCMに使用され日米で大ヒット、以後この曲はティモシーのバージョンがスタンダードとなる。私に取ってはSHM-CDで再発して欲しいベスト10に入るアルバムである。

James Taylor "Covers"
音質 9.8
音楽としての楽しさ 9.7
録音の趣 9.7
A、メッセージ性 2
B、パッション(熱い思い) 4
C、さわやかさ(クール感) 5
D、かっこよさ 3
E、繊細さ 5
Amazonjp
ジェイムス・テイラーはシンガーソングライター、70年デビュー。
このアルバムは彼の最新作、タイトル通りカバー集である。
テイラーは大変繊細な方だそうで、繊細さゆえに心労も絶えず、何度か神経疾患を患っているらしい。しかし自身のプライベートでの経験を題材にしたり、人々の悲喜交々を描いた作品などで、現在アメリカを代表するシンガーといわれるまで登り詰める。83年にロックの殿堂入りした。
キャリアが長い分、発表したアルバムも多く、最近の作品では個人的には2002年のOctober Road が好きだが、今回は最新作で音質も良い、Coversを紹介した。

Paul Simon "Surprise"
音質 9.7
音楽としての楽しさ 9.8
録音の趣 9.9
A、メッセージ性 5
B、パッション(熱い思い) 2
C、さわやかさ(クール感) 3
D、かっこよさ 2
E、繊細さ 5
洋楽好きなら知らぬ人はいないであろう、ポールサイモンは、64年にフォークデュオ「サイモン&ガーファンクル」としてデビュー、シニカルでメッセージ性の強い作風で、サウンドオブサイレンスや明日に架ける橋などといった歴史に残る名作を数々残し、70年に解散。以後ソロとなる。サイモン&ガーファンクルに関してはいつか書きたい題材である。
本作は2006年、彼の最新作であり、音楽的にもオーディオ的にも極めて優れた作品だと思う。
特に4曲目の"Sure Don't Feel Love"の低音は、カーオーディオ的に極めて再生困難な低音といえるだろう。
という訳で、叔父さんポップスシンガーを三人紹介したわけだが、他にも華々しく活動中の素晴らしいシンガーはたくさんいる。
しかし残念な事に、その大半は70年代以前からデビューし、未だ第一線にいるおじさんたちばかりである。
メッセージ性を持ち、熱いパッションを撒き散らしながら、クールでかっこよく、それでいて繊細な感性を持つ、優れた若手男性シンガーの登場を願う。
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