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ロックンロールなかっこいいお姉さん。
パンクやヘビメタではなく、純粋なロックで良質な録音はないですか。
こんなリクエストがあった。
という訳で今回のテーマはロック。それもカーオーディオファンに敬意を表して、女性ボーカルのロックミュージックについてお話しようと思う。
ところで、表題の「かっこいいお姉さん」とは、どういったイメージの女性に用いられるのだろうか。
それには次のような要素があると思う。
○ちょい悪女
○スレンダーな美人(長身であればなおよし)
○男勝り、
○夜型
○野生的
○ファッショナブル
異論はあるかもしれないが、一般的にこういった要素を持つ女性は、総じてかっこいいと呼ばれることが多いだろう。上の6要素の内、3つ以上を満たしていれば、たまにかっこいいと呼ばれることもあるかもしれない。
他にも仕事がデキるとか、頭がいいなどといった項目もかっこいい女性の定義に含まれるかもしれないが、音楽にはあまり関係していなさそうなので除外している。
音楽の世界で、かっこいいと言われる女性アーティストの多くが、R&Bかロックに類していると思われるが、日本人アーティストでは倖田來未や中島美嘉などが、ファッション性とかっこよさをアピールし、楽曲にR&Bを機軸に於いたPOPS形式を多く用いているのに対し、国内のロック系ではかっこよさを表に出した女性アーティストよりも、女らしさやかわいらしさ、楽しさを表に出す女性アーティストが多いように感じる。
ただしこれが洋楽となると、かっこよさ全開の女性ロックアーティストが圧倒的に増えるのである。
これは近年に於ける日本でのロックの健全化という現象と、男性のイメージ上での女性のかっこよさの定義が、日本とその他の国によって異なることに起因していると思われるが、詳しくは判らない。
思えば、私がはじめてかっこいいと感じた女性ロックアーティストは「ザ・ランナウェイズ」だったと記憶している。活動期は70年代後半なので、無論、ガールズバンドの草分け的存在であった事は言うまでもないが、当時女性バンドそのものが珍しかった時代に、ヴォーカルのシェリーは、ガーターベルトにコルセットだけと言う、ほぼ下着のみの過激なファッションに身を包み、大股開いて熱唱していた。
当時思春期だった私は、夜中にひっそりと鼻血をたらしたものである。
しかも(今となってみれば)セックスピストルズ登場の一年前に、すでに、その後パンクと呼ばれるロックの形式を成していたことに対して、近年また評価が高まっているバンドでもある。
デビュー曲のCherry Bombは、邦題が「悩殺爆弾」となっており、当時としては珍しい名訳だと思う。
次いで、ランナウェイズ解散後、二代目ボーカリストだったジョーン・ジェットや、女性ヘヴィメタの草分けとなったギターのリタ・フォードなどが、かっこいい女性ロックアーティストとしてランナウェイズ以後を継承していくのだが、ブルースロックの世界ではボニー・レイットがかっこよさでは抜群の人気を博す。
実はボニー・レイットはランナウェイズよりも古く、音楽性もブルースを基調としたR&Bの要素も含むロックであり、ランナウェイズの音楽性とは一線を隔す。またボニー・レイットはギタリストとしても有名であり、女性スライドギターの草分けでもある。
ボニー・レイットのイメージは、セクシーなお姉さんと言うよりも、肝っ玉おばちゃんといった感じで、アメリカ中西部の片田舎によくあるようなバーのカウンターで無愛想にウイスキーを注いでいる姿が良く似合う。酔っ払いの喧嘩が始まったら、ショットガンをぶっ放して「出て行きな!」とでも言いそうなかっこよさである。
80年代に入ると、ロックの多様化により、パンク・ニューウェイブ系で、かっこいい女性アーティストが多く登場する。キム・カーンズや今回紹介しているプリテンダーズ、或はややシュール系のプラズマティックスやニナ・ハーゲンといった独特なかっこよさを持つアーティストが登場し、独特といえば、シンディー・ローパーも80年代のデビューである。
80年代も後半となると、国内でヘビメタブームが起こり、浜田マリやSHO_YAがデビューするが、ヘビメタ系の解説はまた今度に。
という訳で、今回は純ロック系でかっこいい女性アーティストの、録音の良いアルバムをご紹介しよう。

Lucinda Williamus "Little Honey
音質 9.7
音楽としての楽しさ 9.7
録音の趣 9.5
Amazonjp
ルシンダ・ウィリアムズはナッシュビルのレーベルに所属するアーティストである。従ってカントリー系にカテゴライズされるが、音楽性はブルース・フォークを基調とした完全なるロックンロールである。
本作は2008年発表の最新作だが、前作から1年半と矢継ぎ早の発表で、カントリー色の強かった前作から一転、ロックンロールとブルース色を強め、最高のロックンロールサウンドを聴かせてくれている。現在のマイフェバリットアルバムであり、近年のアメリカンロック系の中でも、秀麗の出来だと思う。
カウントに失敗したような出だしで始まる1曲目のReal Loveは、ヘヴィ系ロックであり、ガナリ立てるようなディストーションサウンドが特徴。ミツバチのウイングノイズをなんらデジタル的エフェクトを使わずに表現した、その名もズバリ、5曲目のHoney Beeは完全な縦ノリ系。10曲目のHeaven Bluesは天国とは名ばかりのだるさとHiFi的サウンドが特徴。こんな秀逸なロックンロールが探せばまだあるのだ。まだ不確実な情報だが、本作は2008年のグラミー賞カントリー部門にノミネートされているらしい。
音質はややリバーブ感のあるスタジオ録音的サウンドで、ロックの重要な要素といえるノリを支えるドラムスの切れと、ベースラインが非常に明瞭であり、ロック系では優秀な録音といえる。但し曲調からはもう少しドライな感じでも良かったのではと思うところから、趣で減点。
ルシンダの愛用するギターはフェンダー・テレキャスターの70年代製ヴィンテージ、その使い込まれたギターには薔薇の絵がびっしりと描き込まれ、皮のライダージャケットにレザーパンツ、極限まで持ち上げられた黒のピンヒールレザーブーツを身にまとい、金髪を振り乱して歌うルシンダは、時代を超越したかっこいいロック姉さんの要素を全て持つ存在なのである。

The Pretenders "Break Up Concrete"
音質 9.4
音楽としての楽しさ 9.5
録音の趣 9.8
Amazonjp
プリテンダーズは79年にデビューした息の長いバンドである。80年代の洋楽に詳しい人なら、全英1位となった「ブラス・イン・ポケット」と言う曲は良くご存知だろうと思う。
音楽性はパンク/ニューウエイブ系のストレートなロックンロールそのもので、現在に至るまでその基本的傾向は変わらないが、90年代以降はアコースティックサウンドやストーンズのようなブルースロックも多く取り入れるようになった。
このバンドの顔であり、女性ロックヴォーカルの教祖とまで言われるクリッシー・ハインドは、元は英国の音楽情報誌「ニュー・ミュージカル・エクスプレス」の記者だった。エルトン・ジョン、ロキシー・ミュージック、セックス・ピストルズなどのプロデューサー、クリス・トーマスのアドバイスを受け、プリテンダーズを結成。その後何度かメンバーチェンジを繰り返し、危機的状況をも乗り越えて、現在にまで至る息の長いバンドを維持してきた、強気のお姉さんでもある。
本作は2008年の最新作で、プリテンダーズの中でも、私の最も好きな一枚になった。
音楽性はこれまでの集大成的要素を持ち、パンク/ニューウェイブ的サウンドからブルージーなもの、或はアコースティック色の強いロックサウンドまで多岐に渡っており、また往年のファンが聴いても即座にプリテンダーズのそれと判る、極めて簡素でストレートなロックンロールという、明確なコンセプトに貫かれている。
音質は、オーディオファンが聞いたら「え!これに9.4も点をつけるの?」と問いたくなるかもしれない。しかしクラシックにはクラシックの、またジャズにはジャズの「らしさ」というものがあり、それを良く引き出す音質が良い録音であるといえるなら、或はその音楽で使用する楽器の音が、よりリアルに再生されるものが良い録音であるといえるのなら、本作は優秀録音であると断言できる。
ギターは、恐らくフェンダー・テレキャスターだと思うが、通称テレキャスの持つ「カーカー」した独特の軽いサウンドは、はっきりとそれとわかるように録音されており、エレキベースはロックンロールやパンクで多く用いられる弦が緩んだような「ブンブン」としたサウンドで録音されている。またドラムスは軽く、バスドラの中に使い古しの毛布を入れてミューティングした感じが良く出ており、これこそがパンク・ロックンロールをイメージさせる音質に仕上がっている。正しくロックの高音質録音かくあるべきという見本ともいえる音質であろう。

The Detroit Cobras "Life, Love and leaving"
音質 9.5
音楽としての楽しさ 9.6
録音の趣 9.7
Amazonjp
センスの良い、如何にもジャケ買いしそうなセクシーショットである。古いマイクにちびたタバコがまた何とも言えない。事実、この人のステージショットはタバコ片手に歌っているものが多い。
デトロイト・コブラスの名前が示すとおり、デトロイト出身だが、かつてのモータウンサウンドとは異なる音楽性を有す。コブラと言うイメージ通りの、攻撃的で渋いロックンロールバンドである。
このバンドはまだ新しく、本作が二枚目。現在三枚のアルバムをリリースしているが、1作目がインディーズデビューだったため、メジャーデビュー作が本作と言う事になる。
デトロイト・コブラスの情報は、現在のところまだ希薄であり、日本のレコード会社からの正式紹介もまだ無い。
ヴォーカルのRachael Nagyはドスの聴いたハスキーヴォイスで尚且つ抜群に歌が上手い。どのステージショットを見てもタバコを持っているため、相当なヘヴィスモーカーなのではないだろうか(ライブハウスが禁煙だったらどうするんだろう)。腕にもびっしりとTATOOが掘り込まれ、恐らく酒量も多いのだろうと想像する。
ハリウッド映画でも禁煙啓蒙のストーリーが多い昨今、ロックも健康的になっていく中、今時時代遅れなほど「酒とロック、それさえあれば・・・・」を地で行くバンドなのだろう。
メンバーは男性三人女性二人のユニット構成。もう一人の女性メンバーはギターを担当しているようだ。
サウンドはゴリゴリの金属系で、ヘビメタではないが、T-REXなどの70年代ヘヴィロックの系譜を受け継いでいる。全編縦ノリロックンロールで、ツインギターの定石通り、一方はフェンダー系、もう一方はギブソン系の音のようだ。1曲目、Hey Sailorは何のエフェクトもない、真空管アンプによるディストーションギターの金属質なカッティングリフから始まり、次いで60年代、後期ロカビリー風の「ドンドンタッカ、ドンドンタッカ」といった感じのドラムスが入る。ロックンロール好きは一発でやられてしまうフレーズである。ミドルテンポの3曲目、Find Me A Homeは色付けのないギターとベースが抜群のリズム感を生み出すブギーナンバーである。
これを購入したのは2006年ごろだったが、購入後しばらくは私の車の定番CDだった。
音質はストレートで、パソコンによる調整など行っていないかのような感じ(事実ギターやベースが音を外している箇所があるが、パソコンを使えばこんなもの簡単に修正可能である)、それが却ってサウンドの純粋性に貢献し、今更ながら、エレクトリック楽器本来の音とはこうだったんだと認識させられるようだ。また音質が音楽性に抜群に合っており、聴きこむほどに、デトロイト・コブラスの世界に引き込まれるような感じになる。
ロック好きなら買って損なしの名盤といえるだろう。
今回は「かっこいいお姉さん」が歌っているロックンロールバンドをご紹介したわけだが、音質に関してはとやかく言われることの多いロック系にあって、オーディオファンの中には、ロックミュージックを高音質として紹介することそのものに異議を唱える方も多いかもしれない。
しかしオーディオに於ける完全な原音再生が不可能である現実において、むしろ求められるべきは「原音楽再生」という言葉ではないだろうか。例えばロックギターはエレクトリック楽器であるため、音色の差異が、アコースティックのそれと比べ、非常に大きい。ロックギタリストがどんなギターを選ぶのかは、個々のアーティストによるものである。但し、そのアーティストが表現したい音の出る楽器を自ら選んでいるわけである(中には楽器のルックスだけで選んでいるミュージシャンもいるが、ロックにおいてはルックスも大切な表現手段である)。その楽器音が正確に再現されるもの、フェンダーならフェンダーらしく、ギブソンならギブソンらしく、それでいてミュージシャンの表現したい音作りを追加し、それが完全に聴き手に伝わる録音は、やはり優秀録音なのである。ベース音でも、ジャズベースを使っているのかプレシジョンベースを使っているのかが、ステージショットを見るまでもなく、聴けばわかる録音は優秀なのである。つまりミュージシャンが表現したい音は、音楽と言う感情の伝達手段において、アーティスト自身によって、感情が最も伝わると考え、選択した音であり、それが明確に伝わる録音は、やはり優秀録音なのである。
そういった観点でロックを聴いていけば、ロックミュージックの世界には意外と高音質録音が多い事に自ずと気付くはずである。
という訳で、今後も度々ロック系音楽をご紹介して行こうと思っている。
こんなリクエストがあった。
という訳で今回のテーマはロック。それもカーオーディオファンに敬意を表して、女性ボーカルのロックミュージックについてお話しようと思う。
ところで、表題の「かっこいいお姉さん」とは、どういったイメージの女性に用いられるのだろうか。
それには次のような要素があると思う。
○ちょい悪女
○スレンダーな美人(長身であればなおよし)
○男勝り、
○夜型
○野生的
○ファッショナブル
異論はあるかもしれないが、一般的にこういった要素を持つ女性は、総じてかっこいいと呼ばれることが多いだろう。上の6要素の内、3つ以上を満たしていれば、たまにかっこいいと呼ばれることもあるかもしれない。
他にも仕事がデキるとか、頭がいいなどといった項目もかっこいい女性の定義に含まれるかもしれないが、音楽にはあまり関係していなさそうなので除外している。
音楽の世界で、かっこいいと言われる女性アーティストの多くが、R&Bかロックに類していると思われるが、日本人アーティストでは倖田來未や中島美嘉などが、ファッション性とかっこよさをアピールし、楽曲にR&Bを機軸に於いたPOPS形式を多く用いているのに対し、国内のロック系ではかっこよさを表に出した女性アーティストよりも、女らしさやかわいらしさ、楽しさを表に出す女性アーティストが多いように感じる。
ただしこれが洋楽となると、かっこよさ全開の女性ロックアーティストが圧倒的に増えるのである。
これは近年に於ける日本でのロックの健全化という現象と、男性のイメージ上での女性のかっこよさの定義が、日本とその他の国によって異なることに起因していると思われるが、詳しくは判らない。
思えば、私がはじめてかっこいいと感じた女性ロックアーティストは「ザ・ランナウェイズ」だったと記憶している。活動期は70年代後半なので、無論、ガールズバンドの草分け的存在であった事は言うまでもないが、当時女性バンドそのものが珍しかった時代に、ヴォーカルのシェリーは、ガーターベルトにコルセットだけと言う、ほぼ下着のみの過激なファッションに身を包み、大股開いて熱唱していた。
当時思春期だった私は、夜中にひっそりと鼻血をたらしたものである。
しかも(今となってみれば)セックスピストルズ登場の一年前に、すでに、その後パンクと呼ばれるロックの形式を成していたことに対して、近年また評価が高まっているバンドでもある。
デビュー曲のCherry Bombは、邦題が「悩殺爆弾」となっており、当時としては珍しい名訳だと思う。
次いで、ランナウェイズ解散後、二代目ボーカリストだったジョーン・ジェットや、女性ヘヴィメタの草分けとなったギターのリタ・フォードなどが、かっこいい女性ロックアーティストとしてランナウェイズ以後を継承していくのだが、ブルースロックの世界ではボニー・レイットがかっこよさでは抜群の人気を博す。
実はボニー・レイットはランナウェイズよりも古く、音楽性もブルースを基調としたR&Bの要素も含むロックであり、ランナウェイズの音楽性とは一線を隔す。またボニー・レイットはギタリストとしても有名であり、女性スライドギターの草分けでもある。
ボニー・レイットのイメージは、セクシーなお姉さんと言うよりも、肝っ玉おばちゃんといった感じで、アメリカ中西部の片田舎によくあるようなバーのカウンターで無愛想にウイスキーを注いでいる姿が良く似合う。酔っ払いの喧嘩が始まったら、ショットガンをぶっ放して「出て行きな!」とでも言いそうなかっこよさである。
80年代に入ると、ロックの多様化により、パンク・ニューウェイブ系で、かっこいい女性アーティストが多く登場する。キム・カーンズや今回紹介しているプリテンダーズ、或はややシュール系のプラズマティックスやニナ・ハーゲンといった独特なかっこよさを持つアーティストが登場し、独特といえば、シンディー・ローパーも80年代のデビューである。
80年代も後半となると、国内でヘビメタブームが起こり、浜田マリやSHO_YAがデビューするが、ヘビメタ系の解説はまた今度に。
という訳で、今回は純ロック系でかっこいい女性アーティストの、録音の良いアルバムをご紹介しよう。

Lucinda Williamus "Little Honey
音質 9.7
音楽としての楽しさ 9.7
録音の趣 9.5
Amazonjp
ルシンダ・ウィリアムズはナッシュビルのレーベルに所属するアーティストである。従ってカントリー系にカテゴライズされるが、音楽性はブルース・フォークを基調とした完全なるロックンロールである。
本作は2008年発表の最新作だが、前作から1年半と矢継ぎ早の発表で、カントリー色の強かった前作から一転、ロックンロールとブルース色を強め、最高のロックンロールサウンドを聴かせてくれている。現在のマイフェバリットアルバムであり、近年のアメリカンロック系の中でも、秀麗の出来だと思う。
カウントに失敗したような出だしで始まる1曲目のReal Loveは、ヘヴィ系ロックであり、ガナリ立てるようなディストーションサウンドが特徴。ミツバチのウイングノイズをなんらデジタル的エフェクトを使わずに表現した、その名もズバリ、5曲目のHoney Beeは完全な縦ノリ系。10曲目のHeaven Bluesは天国とは名ばかりのだるさとHiFi的サウンドが特徴。こんな秀逸なロックンロールが探せばまだあるのだ。まだ不確実な情報だが、本作は2008年のグラミー賞カントリー部門にノミネートされているらしい。
音質はややリバーブ感のあるスタジオ録音的サウンドで、ロックの重要な要素といえるノリを支えるドラムスの切れと、ベースラインが非常に明瞭であり、ロック系では優秀な録音といえる。但し曲調からはもう少しドライな感じでも良かったのではと思うところから、趣で減点。
ルシンダの愛用するギターはフェンダー・テレキャスターの70年代製ヴィンテージ、その使い込まれたギターには薔薇の絵がびっしりと描き込まれ、皮のライダージャケットにレザーパンツ、極限まで持ち上げられた黒のピンヒールレザーブーツを身にまとい、金髪を振り乱して歌うルシンダは、時代を超越したかっこいいロック姉さんの要素を全て持つ存在なのである。

The Pretenders "Break Up Concrete"
音質 9.4
音楽としての楽しさ 9.5
録音の趣 9.8
Amazonjp
プリテンダーズは79年にデビューした息の長いバンドである。80年代の洋楽に詳しい人なら、全英1位となった「ブラス・イン・ポケット」と言う曲は良くご存知だろうと思う。
音楽性はパンク/ニューウエイブ系のストレートなロックンロールそのもので、現在に至るまでその基本的傾向は変わらないが、90年代以降はアコースティックサウンドやストーンズのようなブルースロックも多く取り入れるようになった。
このバンドの顔であり、女性ロックヴォーカルの教祖とまで言われるクリッシー・ハインドは、元は英国の音楽情報誌「ニュー・ミュージカル・エクスプレス」の記者だった。エルトン・ジョン、ロキシー・ミュージック、セックス・ピストルズなどのプロデューサー、クリス・トーマスのアドバイスを受け、プリテンダーズを結成。その後何度かメンバーチェンジを繰り返し、危機的状況をも乗り越えて、現在にまで至る息の長いバンドを維持してきた、強気のお姉さんでもある。
本作は2008年の最新作で、プリテンダーズの中でも、私の最も好きな一枚になった。
音楽性はこれまでの集大成的要素を持ち、パンク/ニューウェイブ的サウンドからブルージーなもの、或はアコースティック色の強いロックサウンドまで多岐に渡っており、また往年のファンが聴いても即座にプリテンダーズのそれと判る、極めて簡素でストレートなロックンロールという、明確なコンセプトに貫かれている。
音質は、オーディオファンが聞いたら「え!これに9.4も点をつけるの?」と問いたくなるかもしれない。しかしクラシックにはクラシックの、またジャズにはジャズの「らしさ」というものがあり、それを良く引き出す音質が良い録音であるといえるなら、或はその音楽で使用する楽器の音が、よりリアルに再生されるものが良い録音であるといえるのなら、本作は優秀録音であると断言できる。
ギターは、恐らくフェンダー・テレキャスターだと思うが、通称テレキャスの持つ「カーカー」した独特の軽いサウンドは、はっきりとそれとわかるように録音されており、エレキベースはロックンロールやパンクで多く用いられる弦が緩んだような「ブンブン」としたサウンドで録音されている。またドラムスは軽く、バスドラの中に使い古しの毛布を入れてミューティングした感じが良く出ており、これこそがパンク・ロックンロールをイメージさせる音質に仕上がっている。正しくロックの高音質録音かくあるべきという見本ともいえる音質であろう。

The Detroit Cobras "Life, Love and leaving"
音質 9.5
音楽としての楽しさ 9.6
録音の趣 9.7
Amazonjp
センスの良い、如何にもジャケ買いしそうなセクシーショットである。古いマイクにちびたタバコがまた何とも言えない。事実、この人のステージショットはタバコ片手に歌っているものが多い。
デトロイト・コブラスの名前が示すとおり、デトロイト出身だが、かつてのモータウンサウンドとは異なる音楽性を有す。コブラと言うイメージ通りの、攻撃的で渋いロックンロールバンドである。
このバンドはまだ新しく、本作が二枚目。現在三枚のアルバムをリリースしているが、1作目がインディーズデビューだったため、メジャーデビュー作が本作と言う事になる。
デトロイト・コブラスの情報は、現在のところまだ希薄であり、日本のレコード会社からの正式紹介もまだ無い。
ヴォーカルのRachael Nagyはドスの聴いたハスキーヴォイスで尚且つ抜群に歌が上手い。どのステージショットを見てもタバコを持っているため、相当なヘヴィスモーカーなのではないだろうか(ライブハウスが禁煙だったらどうするんだろう)。腕にもびっしりとTATOOが掘り込まれ、恐らく酒量も多いのだろうと想像する。
ハリウッド映画でも禁煙啓蒙のストーリーが多い昨今、ロックも健康的になっていく中、今時時代遅れなほど「酒とロック、それさえあれば・・・・」を地で行くバンドなのだろう。
メンバーは男性三人女性二人のユニット構成。もう一人の女性メンバーはギターを担当しているようだ。
サウンドはゴリゴリの金属系で、ヘビメタではないが、T-REXなどの70年代ヘヴィロックの系譜を受け継いでいる。全編縦ノリロックンロールで、ツインギターの定石通り、一方はフェンダー系、もう一方はギブソン系の音のようだ。1曲目、Hey Sailorは何のエフェクトもない、真空管アンプによるディストーションギターの金属質なカッティングリフから始まり、次いで60年代、後期ロカビリー風の「ドンドンタッカ、ドンドンタッカ」といった感じのドラムスが入る。ロックンロール好きは一発でやられてしまうフレーズである。ミドルテンポの3曲目、Find Me A Homeは色付けのないギターとベースが抜群のリズム感を生み出すブギーナンバーである。
これを購入したのは2006年ごろだったが、購入後しばらくは私の車の定番CDだった。
音質はストレートで、パソコンによる調整など行っていないかのような感じ(事実ギターやベースが音を外している箇所があるが、パソコンを使えばこんなもの簡単に修正可能である)、それが却ってサウンドの純粋性に貢献し、今更ながら、エレクトリック楽器本来の音とはこうだったんだと認識させられるようだ。また音質が音楽性に抜群に合っており、聴きこむほどに、デトロイト・コブラスの世界に引き込まれるような感じになる。
ロック好きなら買って損なしの名盤といえるだろう。
今回は「かっこいいお姉さん」が歌っているロックンロールバンドをご紹介したわけだが、音質に関してはとやかく言われることの多いロック系にあって、オーディオファンの中には、ロックミュージックを高音質として紹介することそのものに異議を唱える方も多いかもしれない。
しかしオーディオに於ける完全な原音再生が不可能である現実において、むしろ求められるべきは「原音楽再生」という言葉ではないだろうか。例えばロックギターはエレクトリック楽器であるため、音色の差異が、アコースティックのそれと比べ、非常に大きい。ロックギタリストがどんなギターを選ぶのかは、個々のアーティストによるものである。但し、そのアーティストが表現したい音の出る楽器を自ら選んでいるわけである(中には楽器のルックスだけで選んでいるミュージシャンもいるが、ロックにおいてはルックスも大切な表現手段である)。その楽器音が正確に再現されるもの、フェンダーならフェンダーらしく、ギブソンならギブソンらしく、それでいてミュージシャンの表現したい音作りを追加し、それが完全に聴き手に伝わる録音は、やはり優秀録音なのである。ベース音でも、ジャズベースを使っているのかプレシジョンベースを使っているのかが、ステージショットを見るまでもなく、聴けばわかる録音は優秀なのである。つまりミュージシャンが表現したい音は、音楽と言う感情の伝達手段において、アーティスト自身によって、感情が最も伝わると考え、選択した音であり、それが明確に伝わる録音は、やはり優秀録音なのである。
そういった観点でロックを聴いていけば、ロックミュージックの世界には意外と高音質録音が多い事に自ずと気付くはずである。
という訳で、今後も度々ロック系音楽をご紹介して行こうと思っている。
鬼に金棒。
今日はフルートのお話。
実はわたくし、フルートを少々嗜む。
きっかけは小学校の頃、音楽の授業で聴いた“ビゼー”作曲、組曲アルルの女より「メヌエット」から。
この曲でフルートにはまる人は多いと聞く。
中学時代に半年間、新聞配達のアルバイトをやって中古のフルートを入手。近所の音楽教室にて数回レッスンを受けたが、その後は独学。
高校時代よりロックバンドに傾倒し、徐々にフルートからは離れ、つい最近まで思い出すこともなかったが、楽器店に勤める友人の頼みで、キャンセル品のフルートを購入後、熱病が再発し、44歳になって本格的レッスンを始めるに至ったわけである。
今日ご紹介するフルーティストはとんでもない人、フルートに於ける私の神、いや、フルートの鬼と言うべきか・・・・
サー・ジェームズ・ゴールウェイ(Sir James Galway)
アイルランド系イギリス人のフルート奏者である。
現代最高のフルート奏者の一人。
英国のロンドン交響楽団、ロイヤルフィルハーモニー管弦楽団の主席フルート奏者を経て、カラヤン時代の名門ベルリンフィルに試験入団、首席奏者となる。
また、ベルリンフィルを退団する際、あのカラヤンの慰留を蹴った事でも有名である。
ベルリンフィル退団後はソリストとして活躍、現在に至る。
背はそれほど高くないが、適度に張ったエラの上を髭で装飾し、その広い肩幅はスーツの下に立派な体格が隠されていることを容易に連想させる。
その体型が示すとおり、この方のフルートは恐ろしくパワフルなのである。
「黄金のフルートを持つ男」の異名通り、24金のフルートに拘り、日本製「ムラマツ」の24金フルートを長年愛用。ちなみにこの楽器は2008年現在の価格が9,744,000円、無論ゴールウェーはオプションをたくさんつけているだろうから1千万は超えているであろうと想像される。さらにムラマツは有名アーティストへの楽器協賛を一切行わないメーカーとしても有名で、従ってゴールウェーはこのフルートを自費で購入した事になる。
2005年から米国製「ナガハラフルート」に持ち替えたが、このナガハラフルートは、日本人フルート技師の永原氏により、アメリカボストンで誕生した比較的若いメーカーである。
もう一ちなみに、あらゆる楽器は世界的にみれば欧米ブランドのシェアが高いが、フルートだけは別で、先のムラマツに代表される日本ブランドが世界シェア1位を持っており、2位の米国製とで世界シェアの80%以上を確保する、日本人が最も得意(作るのが)とする楽器だといえる。
黄金のフルートは、安い洋銀製や最も一般的な銀製、或は14金、18金製に比べ、はるかに鳴らすのが難しい。これは素人考えでも判る事で、比重が重いからである。比重が重い金属ほど、強い衝撃を与えなければ、固有の共振周波数を長く発することが出来ない。
ところが、ゴールウェイが24金フルートにハイパワーで息を吹き込むと、管全体が「カーン」と響き、独特のサウンドを生み出す。良い意味で、これが本当にフルートかと問いたくなるほどの独特な音色なのである。例えるならば、フルートにバイオリンの音が少し混じる、或はフルートと小さな音のオーボエが完全なユニゾンで演奏していると言うべきか。
ゴールウェーはその特徴的サウンドを大いに活かして、七色のサウンドとも言うべき表現力を駆使し、音楽の真髄を捉えたとも言うべき、エモーショナルな演奏を最も得意としている。
今回ご紹介するのは、クラシックの有名曲とポップスを交えたアルバムで、1976年から1999年までに録音されたゴールウェーのベスト版である。従って演奏楽器はムラマツ製ということになる。

ベリー・ベスト・オブ・ジェームズ・ゴールウェー
音質 9.0〜9.7
音楽としての楽しさ 9.7
録音の趣 9.5〜9.9
AmazonJP
ゴールウェーという人はクラシックの演奏家ながら、ポピュラー音楽を蔑視せず、自らのレパートリーにもよく取り入れている。このCDは二枚組みで、Disk1がクラシックの小品集。Disk2がポピュラー音楽中心となっており、クラシックファン以外の方でも馴染みやすい。
音質は曲によって録音された年代が異なり様々だが、オーディオファイルでも納得できる高音質といえる。クラシックの演奏ではナチュラルな響きを持たせ、またポピュラーでは曲調に合わせて、例えば“コンドルは飛んでいく”では閉じた感じに、“オールウェイズ・ラブ・ユー”ではたっぷりとしたリバーブ感を持たせた非常に趣の良い録音である。
特に凄いと感じさせられる演奏は、Disk1の8曲目、“ヴェニスの謝肉祭”と、Disk2の11曲目の“メモリー”だろう。
“ヴェニスの謝肉祭”ではピアノの伴奏と一本のフルートと言うシンプルな構成ながら、アップテンポでダイナミックな演奏により、カーオーディオでも大音量で楽しみたくなるなる。またフルートの高低によるトーンの違いを活かして、まるで二本のフルートであるかのように聴かせる、驚異的テクニックを披露している。
“メモリー”は、ミュージカル「キャッツ」の挿入歌として有名だが、この曲でのゴールウェーは正確に音を出す事が難しいとされるフルートの低音部を、管全体を極限まで震わせるかのようなハイパワーで鳴らしまくり、心の芯を突き抜けるかのような、気持ちのよい、抜けの良い音を聴かせてくれる。この美しき音色は、他のどのフルート演奏家の録音からも聴こえてきた事がない。今演奏されているのが本当にフルートなのかと疑問を抱かざるを得ないほどである。
ネットや音楽雑誌などでたまに見かけるアーティストの人気投票。ジェームズ・ゴールウェイは、私の知る限り、フルート部門のどの人気投票でもトップであった。しかしゴールウェイの演奏があまり好きではないという人もいないわけではなく、その理由には「感情的過ぎる」というものが最も多い。確かに彼の演奏はエモーショナルである。
私見だが、クラシックの演奏家は、自分の意見は出来るだけ入れずに、作曲者の意図したところを探りながらも、楽譜通りに演奏すると言うのが基本である。そこに演奏家のオリジナリティはあまり求められない。アドリブなど持っての外である。従って、一音一音に感情を込めるゴールウェイのような演奏は、ある意味クラシックの世界ではアバンギャルドなのかもしれない。
しかしアーティストとして自己表現を中心とする演奏手法は、今やポピュラー音楽を始め、現代音楽では当たり前の話である。従ってクラシック以外の音楽にも、その見識を広げるゴールウェイの演奏は、むしろエモーショナルであるべきで、彼の演奏の真髄は、その多彩な表現力の中にこそあると思っている。
ゴールウェイとそのファンの方には大変失礼な言い方だが、
彼は髭面の赤ら顔で、角を生やせば「温和な顔した鬼」という表現がぴったりである。
彼が黄金のフルートを持てば、正に「鬼に金棒」なのである。
実はわたくし、フルートを少々嗜む。
きっかけは小学校の頃、音楽の授業で聴いた“ビゼー”作曲、組曲アルルの女より「メヌエット」から。
この曲でフルートにはまる人は多いと聞く。
中学時代に半年間、新聞配達のアルバイトをやって中古のフルートを入手。近所の音楽教室にて数回レッスンを受けたが、その後は独学。
高校時代よりロックバンドに傾倒し、徐々にフルートからは離れ、つい最近まで思い出すこともなかったが、楽器店に勤める友人の頼みで、キャンセル品のフルートを購入後、熱病が再発し、44歳になって本格的レッスンを始めるに至ったわけである。
今日ご紹介するフルーティストはとんでもない人、フルートに於ける私の神、いや、フルートの鬼と言うべきか・・・・
サー・ジェームズ・ゴールウェイ(Sir James Galway)
アイルランド系イギリス人のフルート奏者である。
現代最高のフルート奏者の一人。
英国のロンドン交響楽団、ロイヤルフィルハーモニー管弦楽団の主席フルート奏者を経て、カラヤン時代の名門ベルリンフィルに試験入団、首席奏者となる。
また、ベルリンフィルを退団する際、あのカラヤンの慰留を蹴った事でも有名である。
ベルリンフィル退団後はソリストとして活躍、現在に至る。
背はそれほど高くないが、適度に張ったエラの上を髭で装飾し、その広い肩幅はスーツの下に立派な体格が隠されていることを容易に連想させる。
その体型が示すとおり、この方のフルートは恐ろしくパワフルなのである。
「黄金のフルートを持つ男」の異名通り、24金のフルートに拘り、日本製「ムラマツ」の24金フルートを長年愛用。ちなみにこの楽器は2008年現在の価格が9,744,000円、無論ゴールウェーはオプションをたくさんつけているだろうから1千万は超えているであろうと想像される。さらにムラマツは有名アーティストへの楽器協賛を一切行わないメーカーとしても有名で、従ってゴールウェーはこのフルートを自費で購入した事になる。
2005年から米国製「ナガハラフルート」に持ち替えたが、このナガハラフルートは、日本人フルート技師の永原氏により、アメリカボストンで誕生した比較的若いメーカーである。
もう一ちなみに、あらゆる楽器は世界的にみれば欧米ブランドのシェアが高いが、フルートだけは別で、先のムラマツに代表される日本ブランドが世界シェア1位を持っており、2位の米国製とで世界シェアの80%以上を確保する、日本人が最も得意(作るのが)とする楽器だといえる。
黄金のフルートは、安い洋銀製や最も一般的な銀製、或は14金、18金製に比べ、はるかに鳴らすのが難しい。これは素人考えでも判る事で、比重が重いからである。比重が重い金属ほど、強い衝撃を与えなければ、固有の共振周波数を長く発することが出来ない。
ところが、ゴールウェイが24金フルートにハイパワーで息を吹き込むと、管全体が「カーン」と響き、独特のサウンドを生み出す。良い意味で、これが本当にフルートかと問いたくなるほどの独特な音色なのである。例えるならば、フルートにバイオリンの音が少し混じる、或はフルートと小さな音のオーボエが完全なユニゾンで演奏していると言うべきか。
ゴールウェーはその特徴的サウンドを大いに活かして、七色のサウンドとも言うべき表現力を駆使し、音楽の真髄を捉えたとも言うべき、エモーショナルな演奏を最も得意としている。
今回ご紹介するのは、クラシックの有名曲とポップスを交えたアルバムで、1976年から1999年までに録音されたゴールウェーのベスト版である。従って演奏楽器はムラマツ製ということになる。

ベリー・ベスト・オブ・ジェームズ・ゴールウェー
音質 9.0〜9.7
音楽としての楽しさ 9.7
録音の趣 9.5〜9.9
AmazonJP
ゴールウェーという人はクラシックの演奏家ながら、ポピュラー音楽を蔑視せず、自らのレパートリーにもよく取り入れている。このCDは二枚組みで、Disk1がクラシックの小品集。Disk2がポピュラー音楽中心となっており、クラシックファン以外の方でも馴染みやすい。
音質は曲によって録音された年代が異なり様々だが、オーディオファイルでも納得できる高音質といえる。クラシックの演奏ではナチュラルな響きを持たせ、またポピュラーでは曲調に合わせて、例えば“コンドルは飛んでいく”では閉じた感じに、“オールウェイズ・ラブ・ユー”ではたっぷりとしたリバーブ感を持たせた非常に趣の良い録音である。
特に凄いと感じさせられる演奏は、Disk1の8曲目、“ヴェニスの謝肉祭”と、Disk2の11曲目の“メモリー”だろう。
“ヴェニスの謝肉祭”ではピアノの伴奏と一本のフルートと言うシンプルな構成ながら、アップテンポでダイナミックな演奏により、カーオーディオでも大音量で楽しみたくなるなる。またフルートの高低によるトーンの違いを活かして、まるで二本のフルートであるかのように聴かせる、驚異的テクニックを披露している。
“メモリー”は、ミュージカル「キャッツ」の挿入歌として有名だが、この曲でのゴールウェーは正確に音を出す事が難しいとされるフルートの低音部を、管全体を極限まで震わせるかのようなハイパワーで鳴らしまくり、心の芯を突き抜けるかのような、気持ちのよい、抜けの良い音を聴かせてくれる。この美しき音色は、他のどのフルート演奏家の録音からも聴こえてきた事がない。今演奏されているのが本当にフルートなのかと疑問を抱かざるを得ないほどである。
ネットや音楽雑誌などでたまに見かけるアーティストの人気投票。ジェームズ・ゴールウェイは、私の知る限り、フルート部門のどの人気投票でもトップであった。しかしゴールウェイの演奏があまり好きではないという人もいないわけではなく、その理由には「感情的過ぎる」というものが最も多い。確かに彼の演奏はエモーショナルである。
私見だが、クラシックの演奏家は、自分の意見は出来るだけ入れずに、作曲者の意図したところを探りながらも、楽譜通りに演奏すると言うのが基本である。そこに演奏家のオリジナリティはあまり求められない。アドリブなど持っての外である。従って、一音一音に感情を込めるゴールウェイのような演奏は、ある意味クラシックの世界ではアバンギャルドなのかもしれない。
しかしアーティストとして自己表現を中心とする演奏手法は、今やポピュラー音楽を始め、現代音楽では当たり前の話である。従ってクラシック以外の音楽にも、その見識を広げるゴールウェイの演奏は、むしろエモーショナルであるべきで、彼の演奏の真髄は、その多彩な表現力の中にこそあると思っている。
ゴールウェイとそのファンの方には大変失礼な言い方だが、
彼は髭面の赤ら顔で、角を生やせば「温和な顔した鬼」という表現がぴったりである。
彼が黄金のフルートを持てば、正に「鬼に金棒」なのである。
渋いおじさんたちの饗宴
男性のボーカリストと言うものは年々減少傾向にある。
ジャズなどは最早壊滅状態に近い。
ポップス系でも実力派女性ボーカルは次々とデビューするのに、男性ボーカルはトンと聞くことがない。
昔はそうでもなかった。ポップスの世界でもナット・キング・コール、ポール・アンカ、パット・ブーンなど歴史に名を残す男性シンガーがたくさんいた。
ただし今挙げた人たちは全て50年代から活躍し、60年代に全盛期を迎えた人たちである。
もう少し時代は下って、フォークソング、ロック世代になると、バンド上がりの男性シンガーが活躍するようになる。ポール・サイモン、JDサウザー、ボズ・スキャッグス、ビリー・ジョエルなど70年代に活動のピークを迎えた人たちがいる。
それが80年代になると、男性ボーカリストのデビューがめっきり減少する。ジャズではほとんどいなくなるしポップス界ではロッド・スチュワートに代表されるロック的要素の強いポップスに少々存在するだけ。もっともロッド・スチュワートも70年代から活躍している人である。
ただしロックの世界は違う。
ロック、特にハード・ロック、ヘヴィ・メタルの世界では男性ボーカルが大半を占める。
またロックだけではなく、レゲェやR&B、ヒップホップの世界でも同様に男性主流の状況が続いているようだ。
私はなにも男性優位論を唱えているわけではない。男性ボーカルと女性ボーカルの間に、どのような音楽性の違いがあるのかを探っているのである。
その観点から考えるに、女性の声に癒しを求める人が多いのではないだろうか。その事は以前にも書いた。
現代はストレス社会といわれて久しい。
60年代の公民権運動も、それに続くヒッピーカルチャーも、政治性を除けば、一種のストレス開放の形であったと何かの本で読んだ事がある。
現代では社会構造が固定化し、新たなる価値観で革命を起こそうなどといった行動は出来にくい。
また、急激な変化に追従するスピードはより求められる。ストレスは溜まる一方である。
こういった現状の中、女性の声に癒しを求める人々が増えるのも無理からぬ事で、癒しを主眼においた音楽性を持つジャンルにおいては、女性ボーカルが主流を占めるようになったと考える事ができる。
では、ロックやR&B、或はヒップホップ、レゲェなどにおいては、未だ男性ボーカル主流が続く現状をどう説明するか。そこに一つの答えがあるように思う。
男性ボーカルが未だ主流を占める音楽ジャンルには、以下の共通点が挙げられる。
A、メッセージ性
B、パッション(熱い思い)
C、さわやかさ(クール感)
D、かっこよさ
E、繊細さ
無論、このような要素を多く持った女性ボーカルがいないわけではない。しかしこういった感覚は、メッセンジャーとして男性が伝えてこそ、心に深く刺さる傾向が強いのである。
60年代〜70年代に、男性ポップスシンガーが多くデビューしたのも、強いメッセージ性が求められる時代であったからなのだろう。先出のヒッピーカルチャーの時代は正しくそれで、ベトナム戦争を引きずった70年代は、新たな価値観が模索された時代でもあり、多くのメッセージソングを歌う男性ボーカリストがいた。
またラブソングでも、その昔は恋人への熱い思いや、思いの届かぬ苦しい胸のうちを、パッションを込めて歌う男性シンガーが多くいた。しかしそれは現在ではあまり受け入れられることのない恋愛感なのかも知れないが。
またさわやかさや大自然の美しさを朗々と歌う男性ボーカルには、女性のそれにはない力強さや安心感がある。さわやかでクールである事は、相手に安心感を与える行為だとも言えるのではないだろうか。
かっこよさとは男性性そのものでもあり、かっこよさの定義に様々な価値観はあろうとも、それを追求する男性を好ましいと思う女性も多いはずである。
更に男性の繊細さは男性特有のものだと思う。精神面においては女性の方が遥かに強く、男性が悩むような事では女性は悩まない。繊細な感覚を歌う男性ボーカルは人生の悲喜交々を見事に表現する。
という訳で今回は、今や絶滅危惧種となりつつある、男性ポップスシンガーのアルバムを、新旧織り交ぜてご紹介する。音質が良く、聴いて楽しい音楽を主軸におき、解説はくどくならないよう、さらっと済ませるが、今回は特別企画として、先出のAメッセージ性、Bパッション(熱い思い)、Cさわやかさ(クール感)、Dかっこよさ、E繊細さのそれぞれの項目に、5点満点評価を追加する。多分に独断と偏見が混じるのは言うまでもない。

Timothy B Schmit "Playn' It Cool"
音質 9.3
音楽としての楽しさ 9.7
録音の趣 9.6
A、メッセージ性 2
B、パッション(熱い思い) 3
C、さわやかさ(クール感) 5
D、かっこよさ 4
E、繊細さ 3
Amazonjp
84年の作品。
ティモシー・B・シュミットは元来ベーシストとしてポコ、イーグルスを経てソロとなる。
ソロとなってからは、ボーカルやソングライティングにも絶大な才能を見せ、名曲も多い。
3曲目のアカペラコーラスナンバー、So Much In Loveを聴けば「あ〜あれ!」と言う人も少なくないだろう。オリジナルは黒人ドゥーワップグループの「タイムズ」が63年に発表して全米1位となった曲。ティモシーがカバーして、もう随分前にパイオニアのステレオのCMに使用され日米で大ヒット、以後この曲はティモシーのバージョンがスタンダードとなる。私に取ってはSHM-CDで再発して欲しいベスト10に入るアルバムである。

James Taylor "Covers"
音質 9.8
音楽としての楽しさ 9.7
録音の趣 9.7
A、メッセージ性 2
B、パッション(熱い思い) 4
C、さわやかさ(クール感) 5
D、かっこよさ 3
E、繊細さ 5
Amazonjp
ジェイムス・テイラーはシンガーソングライター、70年デビュー。
このアルバムは彼の最新作、タイトル通りカバー集である。
テイラーは大変繊細な方だそうで、繊細さゆえに心労も絶えず、何度か神経疾患を患っているらしい。しかし自身のプライベートでの経験を題材にしたり、人々の悲喜交々を描いた作品などで、現在アメリカを代表するシンガーといわれるまで登り詰める。83年にロックの殿堂入りした。
キャリアが長い分、発表したアルバムも多く、最近の作品では個人的には2002年のOctober Road が好きだが、今回は最新作で音質も良い、Coversを紹介した。

Paul Simon "Surprise"
音質 9.7
音楽としての楽しさ 9.8
録音の趣 9.9
A、メッセージ性 5
B、パッション(熱い思い) 2
C、さわやかさ(クール感) 3
D、かっこよさ 2
E、繊細さ 5
洋楽好きなら知らぬ人はいないであろう、ポールサイモンは、64年にフォークデュオ「サイモン&ガーファンクル」としてデビュー、シニカルでメッセージ性の強い作風で、サウンドオブサイレンスや明日に架ける橋などといった歴史に残る名作を数々残し、70年に解散。以後ソロとなる。サイモン&ガーファンクルに関してはいつか書きたい題材である。
本作は2006年、彼の最新作であり、音楽的にもオーディオ的にも極めて優れた作品だと思う。
特に4曲目の"Sure Don't Feel Love"の低音は、カーオーディオ的に極めて再生困難な低音といえるだろう。
という訳で、叔父さんポップスシンガーを三人紹介したわけだが、他にも華々しく活動中の素晴らしいシンガーはたくさんいる。
しかし残念な事に、その大半は70年代以前からデビューし、未だ第一線にいるおじさんたちばかりである。
メッセージ性を持ち、熱いパッションを撒き散らしながら、クールでかっこよく、それでいて繊細な感性を持つ、優れた若手男性シンガーの登場を願う。
もっと女性ヴォーカルを・・・・
「こだわりの音楽とか、深い世界ってのもいいけど、もっと聴いて楽しくて音も抜群にいい、女性ボーカルとかを紹介してくださいよぉ」
ってお客さんに言われた。
確かにこのブログは、ともすればマニアックな方向に走りすぎるきらいがある。
私自身がマニアックな音楽だけを追い求めている人間かというと、そうではない。
普通に流行りものの音楽も聴いているし、世間一般のオーディオマニアが好む音質の良いCDを買い漁ったりもする。
元々60年代から80年代の洋楽を聴いて育った世代でもあり、ビートルズをはじめ、クリーム、ヤードバーズ、レッドツェッペリン、ディープパープル、ブラックサバスなどのブリティッシュ系から、イーグルス、ポコ、シカゴ、ドゥービーブラザーズ、TOTOなどのアメリカンロック、或はアドレナリンが耳から溢れ出そうなヘビメタ系も大好きである。
このブログを読んでいただいている(ごく少数の)方はもうお気付きかもしれないが、世間的に良く知られているものを紹介するつもりはあまりない。
へそ曲がりと言うわけでもないが、日本最大のカーオーディオコンテストで使われた課題CDであったり、オーディオ業界でよく知られた高音質録音であったり、そういったものを紹介しても、何を今更と言う気がするし、更に音楽の解釈は人それぞれなので、広く知られたものを偉そうに解説すると反感を買いかねない。
でも本当の理由は、「こんな隠れた名盤もあるんですよ、皆さん聴いて見て下さいよ」ということが言いたいだけなのだ。
いいものを手に入れると、知り合いに話したくなる心理そのものなのである。
という訳で、
今回はお客様のリクエストにお答えして、聴いて楽しく、また音質も抜群に良い、女性ボーカルのアルバムを紹介しよう。

GabrielaAnders "Wanting"
音質 9.8
音楽としての楽しさ 9.9
録音の趣 9.8
TOWERJP
ガブリエラ・アンダースはアルゼンチン生まれ、本来はボサノバやタンゴといったラテン音楽専門で、実は初期の頃は日本で活躍していたらしい。
世界デビューにあわせて、それまでのラテン志向からジャズ、R&B志向へとシフトし、そこに彼女が本来持つラテン音楽のテイストを加えて出来上がったのが本作。
これははっきり言って名盤である!
どの曲を聴いても捨て曲なし、録音も最高。
発表は98年と古めだが、日本での発表はずっと遅れて06年。
私はコンテストの審査員に招かれると、このCDの11曲目を良く使う。
音質はリバーブ感が強く、空間の広がりが大きい。その中に個々の定位がぽっかりと浮かび上がり、またその定位が心地よいアンビエントを伴っており、聴いて楽しく、また音質評価にも使える、車に必携のCDと言っても良いだろう。
入手は容易だがどういうわけかAmazonjpにはマーケットプレイスにしか商品がない。TOWERやHMVでは入手可能。

Tiffany "Amazing Grace"
音質 9.9
音楽としての楽しさ 9.7
録音の趣 9.7
Amazonjp
2008年中に私が購入したボーカル系音楽の中ではこれが一番のお気に入り。
この人、知っている人も多いかもしれないが、80年代に天才少女ジャズシンガーとしてデビューし、1st、2ndと大ヒットを飛ばすも、私生活の問題や、両親がギャラを巡って(欲を出して)マネージャーと法廷闘争に及んだ事がきっかけで3rdアルバムが大コケ。それ以来表舞台から姿を消していたが、今年になって、自信のセルフカバー、ベストアルバムともいえる本作を、SACDハイブリッド版で発表。
少女時代を知る人であれば、これまでの苦労が彼女の歌に与えた影響を、本作から聴き取る事ができるだろう。やはり歌はその人の人生経験そのものである。
このCDで特筆すべきは1曲目、Itukino komoriuta〜Summertimeであろう。
Itukino komoriutaとはずばり、熊本民謡の「五木の子守唄」である。
~おどまぼんぎりぼんぎり、盆から先ぁおらんど~という件で始まるあの有名な民謡であるのだが、ティファニーはそれをまた流暢な日本語で歌っており、それがいつの間にかサマー・タイムに変わっていく。
なるほど五木の子守唄もサマー・タイムも、けだるさと言う点では一致しているし、夏がテーマの曲である事も一致している。合わないわけがないのだ。
3曲目のハードなジャズナンバー"Far, Far Away"はティファニー唯一のオリジナル曲だが、いまや本人よりも他のシンガーに歌われる事が多く、本人が潜伏している間にスタンダードとなってしまった名曲である。

Shelby Lynne "Just A Little Lovin'"
音質 9.8
音楽としての楽しさ 9.6
録音の趣 9.6
Amazonjp
カントリー出身のロックシンガー、シェルビー・リン、これは彼女が2000年にグラミー賞ベスト・ニュー・アーティスト賞を受賞してから2枚目のアルバムである。
2000年のグラミー受賞後の二作ともヒットしたが、デビューは89年と古い。
シェルビー・リンは68年バージニア州に生まれ、アラバマ州で育つ。今年40歳。
結構、悲惨な人生を送ってきているようだ。詳細はこちらでご確認を。UNIVERSALMUSIC
17歳でナッシュビルに移り住み、カントリーシンガーとしてデビューを果たすが成功には至らず、アラバマに戻り、そこで出合ったのがシェリル・クロウを成功に導いたプロデューサー、ビル・ボットレルであった。
以前にも書いたが、ロックとカントリーの音楽的境界線は今や極めて曖昧である。しかもカントリーミュージックはテネシー州ナッシュビルにあるレコーディングスタジオに牛耳られており、ナッシュビル以外のレーベルからの発売は、どんなに伝統的カントリーの音楽性を持っていても、カントリーにカテゴライズされることが難しい。
かくして、シェルビーはロックアーティストとして成功するのである。
音楽はカウボーイ・ジャンキーズやKDラングのような、いわゆる「オルタナティブカントリー」といった感じの“ゆる系”で、これがロックとは到底思えない。
しかしカントリー出身でジャズやポップス、或はロックにカテゴライズされる、いわゆるクロスオーバーカントリーと呼ばれるアーティスト、例えば先出のシェリル・クロウやノラ・ジョーンズのように、本来の音楽性の中に、カントリー出身である事が明確となるフレーズやメロディーを内包しているところなどは共通している。
録音はかなりオンマイク気味に録られており、ボーカルが近い。音質は抜群でバックの演奏もキレが良い。
ということで、またもや女性ボーカルを紹介してしまったわけだが、もっとお薦めしたい女性アーティストはたくさんいるし、それ以外の分野でも、書きたい事が山ほどあってどれから手をつけたらよいか判らなくなってしまっている。
この変な音楽レビューをいつも読んでいただいている、とてもありがたい方々の中に、もし「こんなジャンルを特集してくれ」とか「こんなジャンルで音が良いCDはないのか」というご希望があれば、コメント蘭にリクエストを書き込んでみてください。書くかもしれません。
ってお客さんに言われた。
確かにこのブログは、ともすればマニアックな方向に走りすぎるきらいがある。
私自身がマニアックな音楽だけを追い求めている人間かというと、そうではない。
普通に流行りものの音楽も聴いているし、世間一般のオーディオマニアが好む音質の良いCDを買い漁ったりもする。
元々60年代から80年代の洋楽を聴いて育った世代でもあり、ビートルズをはじめ、クリーム、ヤードバーズ、レッドツェッペリン、ディープパープル、ブラックサバスなどのブリティッシュ系から、イーグルス、ポコ、シカゴ、ドゥービーブラザーズ、TOTOなどのアメリカンロック、或はアドレナリンが耳から溢れ出そうなヘビメタ系も大好きである。
このブログを読んでいただいている(ごく少数の)方はもうお気付きかもしれないが、世間的に良く知られているものを紹介するつもりはあまりない。
へそ曲がりと言うわけでもないが、日本最大のカーオーディオコンテストで使われた課題CDであったり、オーディオ業界でよく知られた高音質録音であったり、そういったものを紹介しても、何を今更と言う気がするし、更に音楽の解釈は人それぞれなので、広く知られたものを偉そうに解説すると反感を買いかねない。
でも本当の理由は、「こんな隠れた名盤もあるんですよ、皆さん聴いて見て下さいよ」ということが言いたいだけなのだ。
いいものを手に入れると、知り合いに話したくなる心理そのものなのである。
という訳で、
今回はお客様のリクエストにお答えして、聴いて楽しく、また音質も抜群に良い、女性ボーカルのアルバムを紹介しよう。

GabrielaAnders "Wanting"
音質 9.8
音楽としての楽しさ 9.9
録音の趣 9.8
TOWERJP
ガブリエラ・アンダースはアルゼンチン生まれ、本来はボサノバやタンゴといったラテン音楽専門で、実は初期の頃は日本で活躍していたらしい。
世界デビューにあわせて、それまでのラテン志向からジャズ、R&B志向へとシフトし、そこに彼女が本来持つラテン音楽のテイストを加えて出来上がったのが本作。
これははっきり言って名盤である!
どの曲を聴いても捨て曲なし、録音も最高。
発表は98年と古めだが、日本での発表はずっと遅れて06年。
私はコンテストの審査員に招かれると、このCDの11曲目を良く使う。
音質はリバーブ感が強く、空間の広がりが大きい。その中に個々の定位がぽっかりと浮かび上がり、またその定位が心地よいアンビエントを伴っており、聴いて楽しく、また音質評価にも使える、車に必携のCDと言っても良いだろう。
入手は容易だがどういうわけかAmazonjpにはマーケットプレイスにしか商品がない。TOWERやHMVでは入手可能。

Tiffany "Amazing Grace"
音質 9.9
音楽としての楽しさ 9.7
録音の趣 9.7
Amazonjp
2008年中に私が購入したボーカル系音楽の中ではこれが一番のお気に入り。
この人、知っている人も多いかもしれないが、80年代に天才少女ジャズシンガーとしてデビューし、1st、2ndと大ヒットを飛ばすも、私生活の問題や、両親がギャラを巡って(欲を出して)マネージャーと法廷闘争に及んだ事がきっかけで3rdアルバムが大コケ。それ以来表舞台から姿を消していたが、今年になって、自信のセルフカバー、ベストアルバムともいえる本作を、SACDハイブリッド版で発表。
少女時代を知る人であれば、これまでの苦労が彼女の歌に与えた影響を、本作から聴き取る事ができるだろう。やはり歌はその人の人生経験そのものである。
このCDで特筆すべきは1曲目、Itukino komoriuta〜Summertimeであろう。
Itukino komoriutaとはずばり、熊本民謡の「五木の子守唄」である。
~おどまぼんぎりぼんぎり、盆から先ぁおらんど~という件で始まるあの有名な民謡であるのだが、ティファニーはそれをまた流暢な日本語で歌っており、それがいつの間にかサマー・タイムに変わっていく。
なるほど五木の子守唄もサマー・タイムも、けだるさと言う点では一致しているし、夏がテーマの曲である事も一致している。合わないわけがないのだ。
3曲目のハードなジャズナンバー"Far, Far Away"はティファニー唯一のオリジナル曲だが、いまや本人よりも他のシンガーに歌われる事が多く、本人が潜伏している間にスタンダードとなってしまった名曲である。

Shelby Lynne "Just A Little Lovin'"
音質 9.8
音楽としての楽しさ 9.6
録音の趣 9.6
Amazonjp
カントリー出身のロックシンガー、シェルビー・リン、これは彼女が2000年にグラミー賞ベスト・ニュー・アーティスト賞を受賞してから2枚目のアルバムである。
2000年のグラミー受賞後の二作ともヒットしたが、デビューは89年と古い。
シェルビー・リンは68年バージニア州に生まれ、アラバマ州で育つ。今年40歳。
結構、悲惨な人生を送ってきているようだ。詳細はこちらでご確認を。UNIVERSALMUSIC
17歳でナッシュビルに移り住み、カントリーシンガーとしてデビューを果たすが成功には至らず、アラバマに戻り、そこで出合ったのがシェリル・クロウを成功に導いたプロデューサー、ビル・ボットレルであった。
以前にも書いたが、ロックとカントリーの音楽的境界線は今や極めて曖昧である。しかもカントリーミュージックはテネシー州ナッシュビルにあるレコーディングスタジオに牛耳られており、ナッシュビル以外のレーベルからの発売は、どんなに伝統的カントリーの音楽性を持っていても、カントリーにカテゴライズされることが難しい。
かくして、シェルビーはロックアーティストとして成功するのである。
音楽はカウボーイ・ジャンキーズやKDラングのような、いわゆる「オルタナティブカントリー」といった感じの“ゆる系”で、これがロックとは到底思えない。
しかしカントリー出身でジャズやポップス、或はロックにカテゴライズされる、いわゆるクロスオーバーカントリーと呼ばれるアーティスト、例えば先出のシェリル・クロウやノラ・ジョーンズのように、本来の音楽性の中に、カントリー出身である事が明確となるフレーズやメロディーを内包しているところなどは共通している。
録音はかなりオンマイク気味に録られており、ボーカルが近い。音質は抜群でバックの演奏もキレが良い。
ということで、またもや女性ボーカルを紹介してしまったわけだが、もっとお薦めしたい女性アーティストはたくさんいるし、それ以外の分野でも、書きたい事が山ほどあってどれから手をつけたらよいか判らなくなってしまっている。
この変な音楽レビューをいつも読んでいただいている、とてもありがたい方々の中に、もし「こんなジャンルを特集してくれ」とか「こんなジャンルで音が良いCDはないのか」というご希望があれば、コメント蘭にリクエストを書き込んでみてください。書くかもしれません。
デッド・カン・ダンス
今回はマニアックな音楽のご紹介である。
DEAD CAN DANCE
デッド・カン・ダンス、80年代に結成され、98年に解散した伝説的バンド。2005年に、ワールドツアーのため一度だけ再結成した。
この度DSDマスタリングされ、紙ジャケ仕様のSACDハイブリッドでオリジナルアルバム全8枚が再発売されたのを記念して、全ての人に受け入れられるはずもないマニアックなこのバンドをご紹介したいと思う。
デッド・カン・ダンスは、1981年、オーストラリアのメルボルンにて、リサ・ジェラルドとブレンダン・ペリーを中心に結成された。
オーストラリアでは大して評判にはならなかったようだが、イギリスに移り住み、群を抜いた個性的インディペンデントレーベルである4ADと契約後、まもなくそのレーベルの代表的アーティストとなる。
デッド・カン・ダンス(以下DCD)の音楽性を一言で表すのは難しい。ヨーロッパ的耽美主義を基本に敷きながらも、民族音楽や中世ヨーロッパ古楽、或はアンビエントミュージックなど、様々なジャンルから持ち込まれた音楽性を有し、ひたすら暗く、陰鬱だが、心の深い部分に突き刺さる強烈なインパクトを持っている。
アルバムはそれぞれにコンセプチャリズムを持たされ、一つの一貫した独創的イメージと、それに基づく枝葉的解釈による楽曲から構成されており、最後に結論的終焉を迎えるよう構成されたものが多い。
70年代のプログレッシブロックや、ドリーム・シアターなどがお好きな方であれば、比較的すんなりと受け入れることが出来るだろう。
DCDは“暗黒音楽”とも呼ばれるほど、ダークで内省的である。結成当初は5人組で活動しており、ゴシックでダークな沈み込むロックサウンドだったが、イギリスへ移住と共に、ロック志向の強かったメンバー3人が抜け、ロック的要素が大きく後退、ブレンダンとリサによるクラシカルで荘厳な響きを持つ音楽性へと移行した。
ただし、ただ単に暗く、陰鬱なのではない、DCDの音楽は、ロック風に言うと、「すっげ〜かっこいい!」のである。
元々アイルランド系でロンドン生まれのブレンダン・ペリーは、両親の仕事の関係でニュージーランドへ移住し、そこで出合った先住民の“マオリ音楽”に影響を受けてギターを手にしたそうである。
リサ・ジェラルドはメルボルン出身、ブレンダンと同じくアイルランド移民の子として生まれ、幼少からギリシャ、トルコ、イタリア、アイルランド、アラブの文化に触れ、インスパイアされてきたという。
DCDが音楽界に与えた影響は少なくない。
特に90年代から00年代に至るエレクトリックミュージックやアンビエントミュージックには絶大な影響を及ぼし、現在に至るまで熱狂的ファンを持ち続けている。
現在、ブレンダンはアイルランドの古い教会を購入し移住。そこを活動拠点としている。
またリサはオーストラリアに戻り、ソロ活動を行いアルバムも数枚リリース。映画「グラディエーター」のサウンドトラックにも参加している。
今回はこの難解なDCDのアルバムの中でも、比較的入り易いアルバム3枚をご紹介する。

"Spleen and Ideal" 「憂鬱と理想」
音質 9.2
音楽としての楽しさ 9.8
録音の趣 9.7
Amazonjp
ヴォリュームを大きめに設定してから再生して欲しい。
のっけからものすごいインパクトである。
1曲目のタイトルはDe profundis( out of the depths of sorrow ) 邦題“深キ淵ヨリ我呼ビカケタリ”
正にタイトル通り、異世界に於ける混沌とした深淵より、正体不明の何者かに呼びかけられるがごときサウンドに、思わず背筋が凍るような戦慄を感ぜざるを得ない。耳と脳を素通りし、人間以前の、生命に於ける原始的心理に直接突き刺さるインパクトを持って、このアルバムの開始を告げる曲である。
憂鬱と理想は85年の作品、彼らの2ndにあたり、ロック臭を完全排除し、リサとブレンダン二人による音楽性に移行した最初の一枚である。
音質はネオクラシカル的荘厳にして壮麗なる響きに包まれ、ギターやシンセによる基本的旋律を、ゲスト・プレイヤーたちによるチェロ、ティンパニー、トロンボーン、バイオリン、ソプラノヴォイスなどが彩りを加えていく。
またこのアルバムはフランスの詩人“ポードレール”からインスパイアされたコンセプトを基に作られている。彼の名を決定付けた詩集「悪の華」、その最初の表題こそが本作のタイトルである「憂鬱と理想」なのである。

"Aion"
音質 9.3
音楽としての楽しさ 9.8
録音の趣 9.8
Amazonjp
"Aion"という言葉は、AN AGEという意味らしく、世代/時代のことをさしているらしい。
中世の幻想画家“ヒエロニムス・ボス”のジャケット画が指し示すとおり、中世〜ルネッサンス期のヨーロッパ音楽をコンセプトに置くアルバムである。
90年の作で、私が初体験したDCDはこのアルバムである。
彼らのイメージする中世暗黒世界を音楽で表現したといえる本作だが、実際の中世〜ルネッサンス期に於けるヨーロッパトラッドミュージックのDCDらしいカバーも含まれている。トラック2の“サルタレロ”などがその典型で、この曲は14世紀ごろ、中部ヨーロッパの庶民の間で流行した舞踏曲であり、原曲は「BISレーベル」のWoods, Women and WineというCDで聴く事が出来る。古いヨーロッパの音楽、いわゆる“古楽”についてはいずれまた語るが、ご興味のある方はこのCDも買ってみられると良いだろう。
音質はチャーチミュージックのような豊かなアンビエント包まれたものが多いが、楽曲によってはエコー感を廃したドライな音質で作られているものもあり、曲の持つ雰囲気に重点を置いた、非常に趣の良い音質となっている。

"Into The Labyrinth"
音質 9.6
音楽としての楽しさ 9.7
録音の趣 9.9
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93年の作品、「イントゥ・ザ・ラビリンス」
ラビリンスとは「魔宮」つまり魔の潜む、恐るべき迷路のこと。
この時期にブレンダンはアイルランドの古い教会を買って移住し、リサは結婚してメルボルンに戻る。
テクノロジーのおかげで離れていても音楽活動に支障が出ない時代となったため、それぞれ独自のライフスタイルを確立して行ったのであろうが、それが解散の遠因となった事は想像に難くない。
このアルバムから大胆な方向転換を図り、ヨーロッパ耽美主義的方向性からよりエスニックな方向性へと移り変わる。
本作の1曲目「ユルンガ(聖なる踊り)」ではその特徴が顕著であり、ゆっくりと、そして間延びしたメロディとリサのヴォーカルが延々と続き、まるで時間が止まったかのような錯覚に陥る、いうなれば“静寂を表現する音”とでも言うべきか、そしていきなり、その静寂を引き裂くものが、なんとマラカスの音である。普通に聴けば何気ないマラカスの音であるが、胸がいっぱいになるほど静寂を味あわされた後に、突如として現れるそれは、静寂を引き裂き、心臓を直撃する。それを合図にエスニックなダンスミュージックが始まり、リサのビブラートを効かせた第三世界風のヴォイス続く。まるで迷路の中を、それも決して暗くはなく、狂おしいほどに明るい迷路、丁度半地下の、天井を格子で渡してあり、その上を人々が行きかう市場の雑踏のようになっている迷路。そこを抜け出した瞬間、異世界の踊り子たちが踊り狂う場面に、突如として出くわしたような気持ちにさせる。
音質は、上の二作とは打って変わって“閉じたアンビエント感”であり、正に魔宮という表現がぴったりである。
ジャケットにはモロッコの写真家Touhami Ennadreが写した「老人の手」。
ブレンダンがこのアルバムで表現したかったのは自然賛美あふれるフォークルーツ的なものだったらしい。しかしブレンダンの手にかかれば、フォークルーツもそれを通り越して、更に原始的なる物へと帰趨しているかのようである。
デッド・カン・ダンス、暗く陰鬱で難解だが、何も考えずに聴いても実にかっこいいのである。
かっこいい音楽がお好きで、異世界への憧れを根底に持つ方ならば、誰でも好きになれるバンドだと思う。
DEAD CAN DANCE
デッド・カン・ダンス、80年代に結成され、98年に解散した伝説的バンド。2005年に、ワールドツアーのため一度だけ再結成した。
この度DSDマスタリングされ、紙ジャケ仕様のSACDハイブリッドでオリジナルアルバム全8枚が再発売されたのを記念して、全ての人に受け入れられるはずもないマニアックなこのバンドをご紹介したいと思う。
デッド・カン・ダンスは、1981年、オーストラリアのメルボルンにて、リサ・ジェラルドとブレンダン・ペリーを中心に結成された。
オーストラリアでは大して評判にはならなかったようだが、イギリスに移り住み、群を抜いた個性的インディペンデントレーベルである4ADと契約後、まもなくそのレーベルの代表的アーティストとなる。
デッド・カン・ダンス(以下DCD)の音楽性を一言で表すのは難しい。ヨーロッパ的耽美主義を基本に敷きながらも、民族音楽や中世ヨーロッパ古楽、或はアンビエントミュージックなど、様々なジャンルから持ち込まれた音楽性を有し、ひたすら暗く、陰鬱だが、心の深い部分に突き刺さる強烈なインパクトを持っている。
アルバムはそれぞれにコンセプチャリズムを持たされ、一つの一貫した独創的イメージと、それに基づく枝葉的解釈による楽曲から構成されており、最後に結論的終焉を迎えるよう構成されたものが多い。
70年代のプログレッシブロックや、ドリーム・シアターなどがお好きな方であれば、比較的すんなりと受け入れることが出来るだろう。
DCDは“暗黒音楽”とも呼ばれるほど、ダークで内省的である。結成当初は5人組で活動しており、ゴシックでダークな沈み込むロックサウンドだったが、イギリスへ移住と共に、ロック志向の強かったメンバー3人が抜け、ロック的要素が大きく後退、ブレンダンとリサによるクラシカルで荘厳な響きを持つ音楽性へと移行した。
ただし、ただ単に暗く、陰鬱なのではない、DCDの音楽は、ロック風に言うと、「すっげ〜かっこいい!」のである。
元々アイルランド系でロンドン生まれのブレンダン・ペリーは、両親の仕事の関係でニュージーランドへ移住し、そこで出合った先住民の“マオリ音楽”に影響を受けてギターを手にしたそうである。
リサ・ジェラルドはメルボルン出身、ブレンダンと同じくアイルランド移民の子として生まれ、幼少からギリシャ、トルコ、イタリア、アイルランド、アラブの文化に触れ、インスパイアされてきたという。
DCDが音楽界に与えた影響は少なくない。
特に90年代から00年代に至るエレクトリックミュージックやアンビエントミュージックには絶大な影響を及ぼし、現在に至るまで熱狂的ファンを持ち続けている。
現在、ブレンダンはアイルランドの古い教会を購入し移住。そこを活動拠点としている。
またリサはオーストラリアに戻り、ソロ活動を行いアルバムも数枚リリース。映画「グラディエーター」のサウンドトラックにも参加している。
今回はこの難解なDCDのアルバムの中でも、比較的入り易いアルバム3枚をご紹介する。

"Spleen and Ideal" 「憂鬱と理想」
音質 9.2
音楽としての楽しさ 9.8
録音の趣 9.7
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ヴォリュームを大きめに設定してから再生して欲しい。
のっけからものすごいインパクトである。
1曲目のタイトルはDe profundis( out of the depths of sorrow ) 邦題“深キ淵ヨリ我呼ビカケタリ”
正にタイトル通り、異世界に於ける混沌とした深淵より、正体不明の何者かに呼びかけられるがごときサウンドに、思わず背筋が凍るような戦慄を感ぜざるを得ない。耳と脳を素通りし、人間以前の、生命に於ける原始的心理に直接突き刺さるインパクトを持って、このアルバムの開始を告げる曲である。
憂鬱と理想は85年の作品、彼らの2ndにあたり、ロック臭を完全排除し、リサとブレンダン二人による音楽性に移行した最初の一枚である。
音質はネオクラシカル的荘厳にして壮麗なる響きに包まれ、ギターやシンセによる基本的旋律を、ゲスト・プレイヤーたちによるチェロ、ティンパニー、トロンボーン、バイオリン、ソプラノヴォイスなどが彩りを加えていく。
またこのアルバムはフランスの詩人“ポードレール”からインスパイアされたコンセプトを基に作られている。彼の名を決定付けた詩集「悪の華」、その最初の表題こそが本作のタイトルである「憂鬱と理想」なのである。

"Aion"
音質 9.3
音楽としての楽しさ 9.8
録音の趣 9.8
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"Aion"という言葉は、AN AGEという意味らしく、世代/時代のことをさしているらしい。
中世の幻想画家“ヒエロニムス・ボス”のジャケット画が指し示すとおり、中世〜ルネッサンス期のヨーロッパ音楽をコンセプトに置くアルバムである。
90年の作で、私が初体験したDCDはこのアルバムである。
彼らのイメージする中世暗黒世界を音楽で表現したといえる本作だが、実際の中世〜ルネッサンス期に於けるヨーロッパトラッドミュージックのDCDらしいカバーも含まれている。トラック2の“サルタレロ”などがその典型で、この曲は14世紀ごろ、中部ヨーロッパの庶民の間で流行した舞踏曲であり、原曲は「BISレーベル」のWoods, Women and WineというCDで聴く事が出来る。古いヨーロッパの音楽、いわゆる“古楽”についてはいずれまた語るが、ご興味のある方はこのCDも買ってみられると良いだろう。
音質はチャーチミュージックのような豊かなアンビエント包まれたものが多いが、楽曲によってはエコー感を廃したドライな音質で作られているものもあり、曲の持つ雰囲気に重点を置いた、非常に趣の良い音質となっている。

"Into The Labyrinth"
音質 9.6
音楽としての楽しさ 9.7
録音の趣 9.9
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93年の作品、「イントゥ・ザ・ラビリンス」
ラビリンスとは「魔宮」つまり魔の潜む、恐るべき迷路のこと。
この時期にブレンダンはアイルランドの古い教会を買って移住し、リサは結婚してメルボルンに戻る。
テクノロジーのおかげで離れていても音楽活動に支障が出ない時代となったため、それぞれ独自のライフスタイルを確立して行ったのであろうが、それが解散の遠因となった事は想像に難くない。
このアルバムから大胆な方向転換を図り、ヨーロッパ耽美主義的方向性からよりエスニックな方向性へと移り変わる。
本作の1曲目「ユルンガ(聖なる踊り)」ではその特徴が顕著であり、ゆっくりと、そして間延びしたメロディとリサのヴォーカルが延々と続き、まるで時間が止まったかのような錯覚に陥る、いうなれば“静寂を表現する音”とでも言うべきか、そしていきなり、その静寂を引き裂くものが、なんとマラカスの音である。普通に聴けば何気ないマラカスの音であるが、胸がいっぱいになるほど静寂を味あわされた後に、突如として現れるそれは、静寂を引き裂き、心臓を直撃する。それを合図にエスニックなダンスミュージックが始まり、リサのビブラートを効かせた第三世界風のヴォイス続く。まるで迷路の中を、それも決して暗くはなく、狂おしいほどに明るい迷路、丁度半地下の、天井を格子で渡してあり、その上を人々が行きかう市場の雑踏のようになっている迷路。そこを抜け出した瞬間、異世界の踊り子たちが踊り狂う場面に、突如として出くわしたような気持ちにさせる。
音質は、上の二作とは打って変わって“閉じたアンビエント感”であり、正に魔宮という表現がぴったりである。
ジャケットにはモロッコの写真家Touhami Ennadreが写した「老人の手」。
ブレンダンがこのアルバムで表現したかったのは自然賛美あふれるフォークルーツ的なものだったらしい。しかしブレンダンの手にかかれば、フォークルーツもそれを通り越して、更に原始的なる物へと帰趨しているかのようである。
デッド・カン・ダンス、暗く陰鬱で難解だが、何も考えずに聴いても実にかっこいいのである。
かっこいい音楽がお好きで、異世界への憧れを根底に持つ方ならば、誰でも好きになれるバンドだと思う。







